中山みきの貸物借物の話の逸話

教祖立教の当初は長い間八つの埃、十柱の神の守護、貸物借物の理一点張りで通られた。弟子達は余り毎時も/\貸物借物の理を説かれるから倦きて了つて一日相寄つて相談した。

 何うも何時も/\貸物借物の理では倦きて了ふ。今日は一つ何か珍らしいお話を聞かうぢやないかと。

やがて其の中の一人が教祖の前に出て

「我々は長年の間貸物借物の理を聞かして戴いて最う大抵分つた様である。今日は何か珍らしいお話を聴かして戴きたい」

すると教祖は其の弟子に向つて

「其うだらう貸物借物の理は随分長く説いたから皆な分つたであらう。今日は一つ珍らしい話を聴かせる」

と云つて立つて居間に入られた。弟子達は何をお話になるであらう。何か珍らしい話を宝物でも見せて下さるのであらう、と思つて居ると暫時して一振の刀をもつて出て来られた。

教祖は其れを静かに八足の上に載せ

「サア珍らしいお話をするから最つと近う御寄り」

と云つて弟子達が進み出るのを待つて突然一刀の鞘を払つて太刀を振り上げ一番前に進んだ弟子を目掛けて切り下げ様とした。其の弟子も其他の人達も余りに教祖の剣幕が恐ろしいので思はず後退りをした。すると教祖はカラ/\と笑つて

貴方方は貸物借物の理は永らく聞いてよく分つたから何か珍らしい話を聞かして呉れと云ふから一つ珍らしい話をしてやらうと思えば逃げて了ふ。これではまだ本当に貸物借物の理が分つたとはいへない貸物借物の理が分らないでは人の師匠とはなれない。最つと勉強せんければいかんで

 

と云つて相変らず貸物借物の理を説き続けられたと云ふことである。